角膜・結膜疾患
診断や治療に困った角膜や結膜の疾患を幅広く扱っています.的確な診断をもとに,薬物療法から手術療法まで行っております.手術療法の代表である角膜移植については,全層角膜移植だけではなく,表層角膜移植や角膜内皮移植を取り入れ,良好な手術後の成績を得ております.
感染性の角膜潰瘍や結膜炎に対しては,初診時に培養検査・塗抹顕鏡検査・PCRを行うことで,初診時に診断を確定させるように努めています.特に診断や治療の難しい角膜真菌症やアカントアメーバ角膜炎の治療経験が豊富です.
白内障
当院では,年間約1300件以上の白内障手術を行っており,難治性白内障や小児の白内障,眼内レンズ偏位などの特殊な症例についても対応しております.白内障の診断は,通常行う細隙灯顕微鏡での診察や視力検査のみではなく,波面収差解析装置,前眼部解析装置,コントラスト感度検査,実用視力検査などで,白内障による視機能低下を総合的に評価しています.眼内レンズは,通常の単焦点眼内レンズ,トーリック眼内レンズ,多焦点眼内レンズ(先進医療)を用いており,患者様の眼の状態やライフスタイルに合わせ最適な眼内レンズを選択するよう心がけています.手術は入院(片眼:3〜4日,両眼:約1週間)または日帰り手術で行っています.
<トーリック眼内レンズ>
乱視矯正用の眼内レンズです.白内障術後に乱視が残ると裸眼視力低下の原因となります.手術前に最新の機器を用いて乱視を評価し,適切なレンズを入れることで術後乱視ゼロを目指します.保険診療の適応です.
<多焦点眼内レンズ>
老視を改善する眼内レンズです.遠くと近くの2箇所にピントが合うようになっています.ライフスタイルに合わせて30cm(読書,スマートフォン),40cm(新聞,化粧),50cm(パソコン)のタイプがありますが,中間距離はぼやけて見えます.遠方から中間(70cm〜1m)の距離に焦点が合うタイプのレンズもあります.先進医療のため,手術のみ自費で行います.その他の診察や検査,薬,入院の費用は保険適応です.
網膜硝子体疾患
〈手術について〉
年間約600件の網膜硝子体手術を施行しています.手術治療が可能な網膜疾患は全て当院で行なっています.網膜剥離が約200件以上と最多で,増殖糖尿病網膜症が約200件,その他黄斑前膜,黄斑円孔,網膜細動脈瘤破裂,黄斑変性,黄斑浮腫,未熟児網膜症,小児網膜疾患,感染性網膜疾患,腫瘍性網膜疾患,眼外傷などの疾患の治療を行なっています.当院は茨城県で唯一眼科オンコール体制を敷いており,緊急性の高い患者様を受け入れているため,外傷が多いのも特徴です.年間約200件の網膜疾患の緊急手術を行なっています.施設基準を満たさなければできない最重症の網膜疾患に対する網膜再建術も施行しております.
網膜疾患の手術は硝子体手術と強膜バックリング手術に分かれます.硝子体手術では眼に約0.5mmの創を3つ作成し,眼内に特殊な器具を挿入して網膜や硝子体の治療を行います.硝子体手術は上記全ての網膜疾患に対して適応があります.強膜バックリング手術は結膜を剥離した後にシリコン性のバックルを強膜に縫合する手術で,主に網膜剥離治療に用いられます.患者様の疾患の種類や重症度,年齢,社会背景などを考慮し,最適な術式を選択します.手術する際は原則入院します(日帰り手術も一部あり).疾患の重症度によって入院日数は異なりますが約数日間の入院となります.
〈内科的治療について〉
近年は抗VEGF療法の適応疾患が広がっており,本邦の視覚障害の原因疾患第4位である加齢黄斑変性症や糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症など様々な疾患でその効果が報告されています.それに伴い注射の件数が全国的にも増えており,当院でも年間約2000件以上(2017年度)と顕著に増加しています.
当院では硝子体注射を施行すると決めたら,その日に注射をすることができる体制が整っております.これは外来スタッフの協力の賜物であり,非常にありがたい限りです.来年度には眼科専用の手術室の隣に専用処置室が作られる予定です.更に整った環境で,質の高い医療を行えると考えております.
その他通常の網膜光凝固(マルチカラーレーザー,パターンレーザー),加齢黄斑変性症に対する光線力学療法(PDT),ステロイド注射(テノン嚢下注射、硝子体注射),抗がん剤硝子体注射なども行っております.
また当院では未熟児網膜症の治療として,従来の網膜光凝固に加えて抗VEGF療法も施行しております.国内でもまだ限られた施設でしか行われておりませんが,当院では小児科医の協力のもと,ご両親のご希望で行なっております.そのため他院から注射目的で当院NICUへ搬送される例もあります.
緑内障
緑内障は長年にわたり日本における失明原因の第一位であり,不可逆性の視神経障害を来す疾患なので早期発見と継続的な治療が不可欠です.治療は点眼薬による眼圧下降を行い,視野欠損の進行を防ぐことが第一選択になります.患者様によっては,点眼治療で十分に眼圧が下がらず,視野欠損の進行が抑えられない場合がありますので,そのような場合に緑内障手術を行って眼圧下降を図ります.点眼治療と定期健診であれば地域の病院やお近くのクリニックでの継続的な診療が可能ですが,緑内障手術は人手や設備が必要であり,当院をはじめ限られた施設で施行することが多いです.
当院では上野勇太講師が中心となり,年間200件以上の緑内障手術を施行しています.行っている手術方法としては,一般的な濾過手術(線維柱帯切除術など)や線維柱帯切開術をはじめとして,初期の患者様にはMIGS(低侵襲緑内障手術)と呼ばれる手術,難治性の患者様には緑内障のインプラント手術などを選択することがあります.MIGSやインプラントの中には,最近日本で承認を受けた最新のものも扱っております.
ひとことで緑内障といっても,いくつかのタイプに分かれますので,それぞれの患者様に適した手術方法を提案させていただいております.MIGSの一部は日帰りで行うこともできますが,基本的には片眼あたり7~10日程度の入院治療で行っております.また,緑内障手術は術後の状態が安定するのに時間がかかり,退院後も週に1回程度の外来通院が必要で,眼の状態によっては外来での小処置(レーザーや針での治療)を行う場合もあります.
ぶどう膜炎
眼内の炎症性疾患を総称してぶどう膜炎と呼びます.感染症や全身性の自己免疫性疾患,悪性腫瘍などに伴って起こることが多く,その原因は様々です.原因検索のため眼の各種検査の他,採血やレントゲン,心電図などの検査も行い,膠原病科や呼吸器科などの他科とも連携しながら診断と治療を行います.また当院では,網羅的PCR検査を導入しており,感染性ぶどう膜炎の原因検索を迅速かつ確実に行うことが可能となりました.
ぶどう膜炎の治療は,感染症が原因であれば抗ウイルス薬や抗生剤,自己免疫が原因であれば副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制剤を使用します.疾患によって入院加療が必要となる場合もあります.インフリキシマブ(レミケード)やアダリムマブ(ヒュミラ)などの生物学的製剤は,内科と連携して投与を行っています.
腫瘍・眼窩疾患
茨城県内では眼腫瘍や眼窩疾患を専門とする施設が他にないため,県内全域から多くの症例が来院されます.平岡孝浩講師および星崇仁講師が担当し,眼瞼腫瘍,結膜腫瘍,眼窩腫瘍,眼窩吹き抜け骨折を中心として年間約100件の手術を施行しています.悪性腫瘍が占める割合が全体の4割と高く,拡大手術や再建術,さらに放射線治療や化学療法などの後療法を必要とする症例が多いのも当施設の特徴です.また土地柄か初診時には既にかなり進行しており眼窩内容除去術を余儀なくされる症例や,頭蓋内や骨壁,副鼻腔まで浸潤して眼科単科では対応しきれない症例も少なくありません.常日頃から風通しを良くして,脳外科,形成外科,耳鼻科,皮膚科との合同手術を速やかに行えるような体制作りを心がけています.さらに当院では陽子線センターも稼働しておりますので,幅広い選択肢の中から最適な放射線治療を選ぶことが可能です.
また網膜芽細胞腫に代表される小児悪性腫瘍に関しても,小児科と密に連携を取りながら全身化学療法を含めた集約的治療に取り組んでおります.さらに両眼発症例などの最重症例に対しては国立がん研究センター中央病院と連携を取りながら眼球温存療法を優先させた診療を進めております.
涙道疾患
当科では涙道内視鏡を用いた低侵襲手術(年間約160件),涙囊鼻腔吻合術(年間約30件)を行なっております.涙道内視鏡手術は日帰り手術で手術時間は約30分です.涙道内視鏡を用いて閉塞部を穿破した後,涙管チューブを涙道に挿入します.手術後はおよそ月に1度のペースで外来に通院していただきます.涙管チューブは挿入から約3ヶ月後に抜去します.流涙の症状が長く続いている方は,チューブを抜去した後に再発しやすい傾向がありますので、早めの受診をお勧めいたします.
涙囊鼻腔吻合術は3泊4日の入院で行います.当院では全身麻酔で手術を行います.目と鼻の間の皮膚に2cm程度の切開を行う鼻外法で手術を行います.鼻から手術を行う鼻内法は当院の耳鼻科で施行しています.
斜視・弱視
加藤篤子医師と4人の視能訓練士を中心に斜視弱視の診療にあたっています.火曜日から金曜日の午後に専門の外来枠を設けており(木曜日が中心,他は若干名),近隣のクリニックや小児科などの他科から紹介頂いたかたを中心に診療しています.斜視手術は,外斜視(間欠性,恒常性)や内斜視(乳児内斜視,部分調節内斜視,固定内斜視),下斜筋過動などの疾患に対して年間20件から30件ほどの手術を行なっています.小児患者は全身麻酔で,成人患者は局所麻酔と全身麻酔はご希望にあわせて行っています.また,弱視の検査治療も行っています.一般的に,弱視治療の際には健眼遮蔽をいつまで続けるか判断に迷うことが多いですが,当院では通常の視力に加え実用視力も参考に治療期間を判断しています.実用視力は1分間の視力を連続して測定する特殊な視力検査で,健眼遮蔽により視力が1.0以上得られても,実用視力を測定すると弱視眼が健眼より低いことがあります.その場合はまだ弱視治療が完了していないと考え,健眼遮蔽を継続していただきより安定した視機能を得られるような工夫をしています.