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Research Performance

研究実績

糖尿病黄斑浮腫治療におけるアフリベルセプト硝子体注射に 網膜光凝固を併用したTreat and Extend法の治療効果についての検討 – 治験・臨床研究

患者募集 終了

【背景】
糖尿病黄斑浮腫治療において即効性がある抗VEGF薬(Vascular Endothelial Growth Factor 血管内皮増殖因子)は、遷延する浮腫による視細胞の障害を予防できる。したがって、視力改善・維持を目指す糖尿病黄斑浮腫治療においては、第一選択薬となりうる。従来、糖尿病黄斑浮腫治療のgold standardであったdirect/Grid凝固と異なり、抗VEGF薬の硝子体注射は中心窩近傍からの漏出の治療にも著効することはその長所と言える。一方で抗VEGF薬の短所は、その効果が1-2ヶ月と一過性である事であり、この効果が切れると黄斑浮腫は再発する。
direct光凝固の特徴は浮腫があっても、網膜血管瘤の赤血球にレーザーの熱は吸収され毛細血管瘤からの漏出が止まり、浮腫は減少する。しかし、眼科医の眼で観察可能な毛細血管瘤は、漏出する毛細血管瘤のうち赤血球がよどんでいるものに限られるので、毛細血管瘤凝固だけで黄斑浮腫が治癒することは稀である。さらに、毛細血管瘤はアーケード内に無灌流領域が形成されている限りはVEGF過剰発現はすすむためdirect凝固のみで根治療法は困難である。
Grid 凝固のETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study )レポートにおける定義は、アーケード内のびまん性漏出もしくは無灌流領域への凝固である。無灌流領域へのレーザーは、即効性は低いが永続的な抗VEGF効果が期待される。本研究ではdirect/Grid凝固(毛細血管瘤直接凝固/アーケード内無灌流領域へのGird凝固)を併施した際の抗VEGF抗体硝子体注射の回数・治療効果(中心窩網膜厚・視力)と、既報の抗VEGF薬のみの治療による硝子体注射の回数・治療効果を比較検討する。

【目的】
糖尿病黄斑浮腫(Diabetic Macula Edema)治療において即効性があり中心窩近傍の治療にも使用可能な抗VEGF薬の1つであるAflibercept(アイリーア®)は、VEGF receptors 1 and 2の細胞外ドメインとヒトIgG1のFcポーションを合成したものでVEGF-A and VEGF-B, placental growth factor (PlGF)と結合してその活性を抑える。
従来DME治療のgold standardであったdirect laser to leaking microaneurysms (focal/direct laser)とgrid laser to diffuse leakage and capillary nonperfusion (Grid laser)は、即効性に劣りかつ中心窩近傍に存在する漏出点(漏出を伴う血管異常)を治療できない欠点があるが、一旦効果が出ればこれは永続性がある。

■Treat and extend
現在Afliberceptを用いた加齢黄斑変性の治療はtreat and extendが主流である。まず、1ヶ月毎に連続3回硝子体注射を行い(treat)、症状が安定すると(視力安定、出血減少、中心窩の浮腫や漿液性剥離の吸収)次は6週間後に再来するように指示される(extend)。6週後の再来時は、視力、OCT変化などがチェックされ、視力低下やOCTによる漿液性剥離や浮腫がなくても、Afliberceptを投与される(treat)。そして次回は8週間後に再来を指示される(extend)。
本研究では投与期間についてはこのtreat and exrendを用いる。

■Direct and grid laserと併用した、糖尿病黄斑浮腫のtreat and extend治療の試み
DRCR.netの報告では、direct/Grid凝固と抗VEGF薬の1つであるRanibizumabを併用した臨床研究では、中心窩網膜厚250µm以上という再投与基準で、3年目以降にranibizumabの硝子体注射の必要数は、0-1回程度に減少する。著者らはdiscussionしていないが、これはGrid凝固でアーケード内の無灌流領域をlaserすることで、中心窩近傍でのVEGF産生が低下することが一因となっていると我々は考えている。
中心窩の浮腫を即効性を持って吸収させるAfliberceptで視細胞障害を防ぎ良好な視力を維持しながら、その一方で即効性は低いが永続的な抗VEGF効果が期待されるdirect/Grid凝固(毛細血管瘤直接凝固/アーケード内無灌流領域へのGird凝固)を併施することにより良好な視力を維持しながら、硝子体注射の期間を1ヶ月単位で伸ばせる、理想的なtreat and extend治療が行えると仮説を立てた。
半年後、1年後、2年後の治療効果(中心窩網膜厚・視力)を検討する。観察期間中のAflibercept硝子体注射の回数(既報のAfliberceptおよびRanibizumabの単独治療による硝子体注射の回数と比較)および血圧を含めた全身の安全性についても副次的に評価を行う。

【方法】
以下のものを対象とする
① 1型もしくは2型糖尿病患者で20歳以上
② 中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫(OCT center subfieldにて判断)を認める
③ 糖尿病黄斑浮腫による視力低下を認める
④ 矯正視力がETDRS視力で24文字(20/320)以上
(VIVID・VISTA試験では上限をETDRS視力73文字(20/40)以下とされているが早期治療をめざし、この上限は設定しない。)
⑤ 他覚所見として中心窩領域網膜厚(CRT)がOCTレチナルマップ(1mm測定)で300㎛以上
⑥ 通院と本研究で予定されている検査を行う意思があり、また可能である
⑦ 本研究への参加にあたり十分な説明を受けた後、患者本人の自由意思に基づき文書による同意が得られる

除外基準
以下の除外基準のいずれにも該当しない患者を対象とする。
・ 僚眼の状態がstudy登録眼より悪い
・ 輪状締結術を含む硝子体手術の既往
・ Aflibercept初回投与予定日より90日以内の何らかの網膜光凝固治療
・ 2回以上のdirect laser・Grid laser
・ Aflibercept初回投与予定日より120日以内の局所ステロイド治療(硝子体内注射・テノン嚢下注射を問わない)
・ Aflibercept初回投与予定日より90日以内のstudy登録眼に対する抗VEGF薬硝子体注射治療
・ study登録眼における活動性の高い増殖糖尿病網膜症
・ 特発性・自己免疫性のぶどう膜炎の既往
・ study登録眼に対する過去90日以内の白内障手術歴
・ 無水晶体眼
・ study登録眼に対する過去30日以内の後嚢切開術
・ study登録眼に対する過去90日以内のすべての眼内手術歴
・ 明らかな硝子体黄斑牽引が確認され、浮腫によらない視力低下を認める
・ study登録眼の虹彩血管新生、硝子体出血、牽引性網膜剥離のいずれかを伴う
・ study登録眼の網膜前における線維化
・ 黄斑部の萎縮などの形態的な変化により視力の改善が難しいと考えられる
・ study登録眼における眼内炎の既往
・ study開始時の両眼での眼瞼炎・角膜炎・強膜炎・結膜炎
・ study登録眼での眼圧コントロール不良の緑内障、緑内障に対する濾過手術の既往もしくは今後濾過を行う可能性
・ study登録眼の眼圧が25mmHg以上
・ -8D以上の近視
・ DME以外に視力低下をきたす可能性のある疾患(具体的には網膜血管閉塞・網膜剥離・黄斑円孔・何らかの原因による黄斑部新生血管)の既往
・ study登録眼が唯一眼
・ 眼底写真やOCT画像を取得することが困難な中間透光体
・ Study開始時における全身の重症感染症
・ Aflibercept初回投与予定日より180日以内の全身的な血管新生阻害剤の投与
・ コントロール不良の糖尿病(目安としてはHbA1c>12.0%)
・ コントロール不良の高血圧(目安としては収縮期≧160、拡張期≧95mmHg)
・ Aflibercept初回投与予定日より180 日以内の脳血管障害and/or心筋梗塞の既往
・ 透析や腎不全が必要な腎不全
・ 本研究の結果に影響を及ぼす可能性がある薬剤の投与が必要となるような全身的な疾患
・ 妊娠中もしくは授乳中の女性
・ 挙児希望があるがstudy期間中の避妊を望まない
・ フルオレセインアレルギー
・ Afliberceptに対する薬剤過敏性
・ Aflibercept初回投与予定日より30日以内の別の治験への参加

その他、研究責任者が被験者として不適当と判断した患者

主要評価項目:
光干渉断層計(OCT: Optic Coherence Tomograph) による中心窩領域網膜厚、視力副次評価項目:アフリベルセプト硝子体注射の回数、安全性

【症例数】
研究全体の症例数:40症例

【参加施設】

村田 敏規信州大学医学部附属病院眼科教授
高村 佳弘福井大学 眼科学教室准教授
杉本 昌彦三重大学 臨床医学系講座・眼科学講師
岡本 史樹筑波大学医学医療系眼科講師
杉浦 好美筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター総合病院 水戸協同病院眼科医師
吉田 茂生九州大学医学部眼科講師
長岡 泰司旭川医科大学准教授
野田 航介北海道大学大学院医学研究科眼科分野准教授
澤田 修滋賀医科大学 眼科学講座助教