Research Performance
研究実績
人工硝子体の開発 – 研究紹介
岡本史樹講師,星崇仁講師,村上智哉を中心に行っています.東京大学の酒井崇匡准教授(バイオエンジニアリング学)との共同研究により、長期埋め込み可能な人工の硝子体の開発に世界で初めて成功しました.現在国内では様々な網膜疾患を治療する目的で,硝子体切除術が行われています.硝子体手術は術中術後合併症を防ぐために術終了直前に硝子体の代替物質を充填することが一般的です.しかしガス,シリコンオイル,パーフルオロカーボンなどの既存の代替物質には網膜毒性や白内障の進行などの副作用があり,術後に再手術で抜去しなければならず,患者様はうつ伏せ姿勢で数日間の入院安静が必要となるなど,種々の問題があります.その問題を解決すべく我々は新たなハイドロゲルを開発しました.
眼の透明組織としては、水晶体と角膜は人工物が開発されていますが,人工硝子体は未だ開発されていません.生体適合性が高いハイドロゲルは人工硝子体として有望です.しかしハイドロゲルは膨潤による眼圧上昇が不可避である点と,炎症による混濁を生じるため,未だ臨床応用に至っていません.我々は,これらの欠点を解消した低ポリマー濃度でありながら,反応後数分でゲル化可能なハイドロゲルを開発しました.マウスでの安全性を確認し,ウサギに本ゲルを埋植し,1年以上の長期観察を行い,安全性と有効性を確認しました.また,ウサギ網膜剥離モデルにおいても本ゲルにて治療可能であることを検証しました.本ゲルの分子設計から臨床応用前段階までの実験成果が認められ,Nature Biomedical Engineering誌にアクセプトされ(Nature Biomedical Engineering. 2017),Nature誌やNature Reviews Materials誌にTopicsとしてLetterが掲載されました(Nature.2017, Nature Reviews Materials.2017) .
この人工硝子体は長期間の充填能力を有するため,臨床応用されれば硝子体手術の術後合併症は減り,抜去手術を行う必要がなくなり,重症の難治性網膜疾患の手術にも適応できます.また既存のタンポナーデ物質と異なりヒト硝子体とほぼ同等の屈折率を持つため,術後早期より良好な視機能を提供できますし,術後患者のうつぶせが不要となることで日帰り手術の促進につながり,患者の精神的負担軽減や医療経済上のメリットをもたらします.現在製品化に向けて,様々な基礎実験,動物実験を行っています.
この研究は以下の競争的資金により行っています.2017〜2019年AMED革新的医療技術創出拠点プロジェクト:新規臨界ハイドロゲルを用いた人工硝子体の開発(シーズB16-25),2014〜2017年さきがけ:ゲル化臨界クラスターを基盤としたゲルシステム.