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Research Performance

研究実績

網膜硝子体疾患の臨床研究 – 研究紹介

筑波大学眼科の網膜硝子体チームでは網膜硝子体疾患の臨床研究を活発に行っており,現在も約10以上のプロジェクトが同時進行しています.疾患や症状などの原因を探り,その解決法を見出し,より良い先進的な治療法を開発すべく研究を行っております.

網膜硝子体手術と視機能についての包括的研究

岡本史樹講師,杉浦好美講師,村上智哉,森川翔平を中心に行っています.近年,網膜硝子体疾患に対する硝子体手術は機器や技術の進歩により適応も広がり,治療成績は飛躍的に向上しています.そして現在,網膜疾患の治療成績は視力と網膜画像(optical coherence tomography;OCT)で評価されています.しかし,視力とOCT所見が一見正常であるにもかかわらず,視機能面での不満を愁訴とする患者は少なくありません.見え方の愁訴は“歪んで見える”,“小さく見える” ,“なんとなく見えない” ,“距離感がない” など多彩です.これらの愁訴を紐解いていくと,歪む→変視,小さく見える→不等像視,なんとなく→コントラスト感度,距離感がない→立体視というように1つ1つに意義のある視機能因子であることが分かります.私たち医療従事者は視力以外の視覚の質(Quality of Vision, QOV)にもっと目を向けなければいけません.私達は網膜硝子体疾患のQOVについての研究を積極的に行っています.

・歪み=変視.物体の形状が実際と異なって歪んで見えることを変視,歪視と言います.黄斑部の視細胞の配列が不規則に乱れることにより惹起されると考えられています.黄斑前膜は変視を訴える代表的な黄斑疾患で,ほとんどの患者様が変視を訴えます.黄斑前膜の変視は他の網膜疾患よりも重症であり,視覚関連Quality of lifeに影響することが分かってきました(Am J Ophthalmol.2009).手術により術後1年で術前変視量の3-4割まで改善しますが,消失はしません.また術後の変視は術前の網膜内層(INL)が厚いほど強く残ることが分かりました(Invest Ophthalmol Vis Sci. 2012,Retina. 2015).黄斑円孔においても黄斑前膜患者と同じく手術により変視を改善させることができますが,完全に無くすことはできません.また,術前の黄斑円孔のfluid cuffが大きいほど,術後の変視が強いことを報告しました(Retina. 2017).網膜剥離術後早期では変視が強く残ります.そして最終的に変視は消退せず,術後1年で4-5割の症例に変視を認めます(Am J Ophthalmol. 2014).術後の変視はOCTでのinterdigitation zoneの状態や外境界膜- 網膜色素上皮厚と関連があることが分かりました(Retina.2017).その他,黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)でも変視が生じることを報告しました(Acta Ophthalmologica.2017).

歪み=変視
歪み=変視

・不等像視.不等像視は左右眼で物の大きさが違って見えることで,大きく見えれば大視症,小さく見えれば小視症と言われます.網膜剥離術後では約4割が小視症を自覚しています.術後の一過性の黄斑浮腫や術前の黄斑部網膜剥離が原因と考えられています(Invest Ophthalmol Vis Sci.2014).また,黄斑円孔でも小視症をきたしますが,手術により正常レベルまで戻ります.黄斑円孔患者の術前の不等像視量は最小円孔径,円孔底径,外境界膜の欠損長と関連がありました(Ophthalmology. 2016).黄斑前膜はその約9割が大視症を呈し,手術により軽減しません.網膜構造との関連を調べると,術前後の不等像視量はそれぞれ網膜内層(INL)の厚さと関連があり,術後不等像視量の予後因子は術前のINLの厚さでした(Ophthalmology. 2014).

不等像視

・コントラスト感度.視力は視機能因子のうち最も重要な形態覚の一部ですが,コントラスト感度は形態覚全体を表す指標とされ,視力に比べてQOVをより鋭敏に反映するものと考えられています.網膜剥離患者では,黄斑未剥離で視力が正常レベルでも僚眼よりコントラスト感度が低下しています(Am J Ophthalmol. 2013).また,網膜剥離における強膜バックリング手術は眼球形状を大きく変えるため,乱視や高次収差を増大させ,術後の視機能を障害させることも報告しました(Ophthalmology. 2008).黄斑前膜では手術により視力良好となってもコントラスト感度は僚眼より低下しています(Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014).また糖尿病黄斑浮腫においては硝子体手術により視力が改善しなくてもコントラスト感度が改善することを報告しました(Jpn J Ophthalmol. 2014).

コントラスト感度

立体視.視機能の中でも非常に高度な機能です.網膜剥離や黄斑前膜,黄斑円孔では治療前の視力低下や不等像視が立体視の低下と関連していることを報告しました.また網膜剥離や黄斑前膜の患者は,手術後視力が良好であっても立体視は健常者レベルまで改善しないことも報告しました(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2014, Retina. 2015).

網膜硝子体手術と視覚関連Quality of Life (QOL,生活の質)について

岡本史樹講師,岡本芳史講師,杉浦好美講師,村上智哉,森川翔平を中心に行っています.網膜硝子体手術のゴールは視力を改善させることでも,網膜の構造をなおすことでもありません.そのような過程を経て,患者様のQOLを改善させることが最終目標であると言えます.私達は硝子体手術とQOLとの関わりについて研究を行っています.黄斑円孔や黄斑前膜は,視力ではなく変視とQOLに密接な関係があることが分かりました.そして手術によりQOLが改善することも報告しました(Br J Ophthalmol. 2009, Am J Ophthalmol. 2009).また,網膜剥離,増殖糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫患者の術前後のQOLはコントラスト感度に影響を受けることも報告しました(Am J Ophthalmol. 2008, 2009, 2013, Invest Ophthalmol Vis Sci. 2010, Jpn J Ophthalmol. 2014).また下垂体腺腫における視機能低下がQOLと関連することも分かっています(Am J Ophthalmol. 2008, Invest Ophthalmol Vis Sci. 2010) .

網膜静脈閉塞症,糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF剤治療と視機能

岡本史樹講師,杉浦好美講師,村上智哉,森川翔平を中心に行っています.現在の網膜静脈閉塞症や糖尿病黄斑浮腫治療の第一選択は抗VEGF剤の硝子体注射です.しかしながらこれらの治療成績は視力や網膜構造でしか評価されていません.そこで私達は視力以外の視機能,変視やコントラスト感度という側面より抗VEGF剤治療の評価を行っています.

網膜静脈分枝閉塞症の患者様はそのほとんどが変視を呈し,抗VEGF剤治療を行うと視力は改善しますが,変視は短期,中期的にみると改善しないことを報告しています(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol.2016, Retina.2018).現在は治療における変視やコントラスト感度,不等像視,立体視の長期的な評価を実施しています.

この研究は以下の医師主導臨床試験をもとに行っています.“糖尿病黄斑浮腫におけるアフリベルセプト注射前後のコントラスト感度を含めた視機能と視覚関連Quality of Lifeの検討”,“網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫におけるラニビズマブ注射前後の変視を含めた視機能と視覚関連Quality of Lifeの検討”

網膜静脈閉塞症,糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF剤治療と視機能

日本における開放性眼外傷の臨床的特徴と視力予後

岡本史樹講師,岡本芳史講師,森川翔平を中心に行っています.日本の代表的な基幹病院と共同でデータベースを構築し,日本での眼球破裂や穿孔性眼外傷などの統計学的検討を行っています.(参加して頂いている基幹病院:徳島大・兵庫医大・奈良県医大・鹿児島大・名古屋市大・滋賀医大・市立札幌病院・福井大,順不同)それらのデータベースを元に眼外傷の臨床的な特徴や治療成績をまとめています.

  1. 1.スポーツによる開放性眼外傷の臨床的特徴(Acta Ophthalmol.2018)
  2. 2.交通外傷による開放性眼外傷の臨床的特徴(Retina.2017)
  3. 3.転倒によるによる開放性眼外傷の臨床的特徴(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol.2018)
  4. 4.就労によるによる開放性眼外傷の臨床的特徴
  5. 5.日本における開放性眼外傷の臨床的特徴(Jpn J Ophthalmol.2018)

網膜疾患における多施設共同臨床研究

全国約10数の大学や基幹病院と共同で(J-CRESTというチーム)様々なデータベースを構築し,多施設共同後ろ向き研究を行っています.筑波大眼科では岡本史樹講師,岡本芳史講師,村上智哉,森川翔平,田崎邦治,守屋友貴を中心に行っています.

  1. 1.網膜静脈分枝閉塞症の臨床病態観察(愛知医大主導)
  2. 2.網膜中心静脈閉塞(CRVO)の臨床所見と治療成績(三重大主導)
  3. 3.日本での黄斑浮腫に対する抗VEGF製剤投与(三重大主導)
  4. 4.加齢黄斑変性の初回治療前視力の推移(滋賀医大主導)
  5. 5.黄斑円孔網膜剥離の術式と予後の検討(滋賀医大主導)
  6. 6.シリコンオイル抜去眼の残存シリコンオイルの新しい評価法と眼所見
  7. 7.相関に関する後ろ向き研究(鹿児島大主導)
  8. 8.大型黄斑円孔の術式と予後の検討(鹿児島大主導)
  9. 9.糖尿病黄斑浮腫患者に対する治療実態の疫学調査(東京医科大学八王子医療センター主導)
  10. 10.緑内障を伴った黄斑部網膜分離の臨床的特徴と治療成績(奈良県立医大主導)
  11. 11.若年者網膜剥離の多施設後向き研究(兵庫医大主導)